ムーンマジック Last

Posted by ema-sque on 15.2009 2 comments 0 trackback



冷蔵庫に入れたままの挽いたコーヒーを取り出して開封すると、
閉じ込められていた香りがキッチンに広がる。
熱湯を少し注いで粉を蒸らす。
琴子はこの蒸らされて膨らんでいる粉がふっくらとする所が好きだと言っていた。
そして、ひたすら細くのの字を描くように注いでいく。馬鹿みたいに丁寧に。
言いつけを守る子どものように。
そんな姿を思い浮かべながら、さっきの香りに重なって、
淹れたての香りが今度はリビングまで広がっていく。

リビングのベランダに面した窓にぽつんと座っているちび琴子の所にも
香りが広がったらしい。
小さな騒がしい声が聞こえる。


「ほら。」小さなミルクピッチャーに甘いコーヒーをスプーンで注いで持ってきた。
それでもちび琴子には抱えるくらい。

「ありがとう」
「ちょうど手で持ちやすい温度だね。ありがとう、入江くん。」

自分の手には琴子が選んだマグカップ。いつもはブラックなのだけど、
今日は琴子仕様だ。
甘くてやわらかい口当たり。

ちびちびと飲んでは、にっこりしてみせる。
「ちょうどいい甘さだね!」



そして、ベランダの窓から月を見上げる。
青白い光が差し込んでくる。月の光でもこんなに濃い影が出来る。
コーヒーを手に抱えて無言の時が過ぎる。気がつくとちび琴子の輪郭と
月の光と影の境界がすこしずつぼんやりし始めた。

夢のような時間は、多分残り少ない。


☆☆☆

ぼんやりと夕食を食べ、食後のコーヒーを片手にベランダに出る。
祐樹も紀子も琴子の様子を心配していたが、あえて構わないようにそれぞれ
自室に戻っていた。


昨日のお月様と変わらないくらい綺麗に輝いている。
そうだ願い事をしたっけ‥。
椅子に腰掛けると、青白く輝きをましている月をじっと見詰める。
「入江くんもこの月見ているのかな‥。」

☆☆☆

薄暗い室内で月の光を浴びながら、向かい合っている。
ちび琴子が沈黙を破る。
「お月様のお陰で、入江くんの近くにいられてとても嬉しかった。」

「琴子こそ、来てくれて‥‥ありがとう。」
ちび琴子はその言葉にはっと目を見開いて見上げる。
ぼんやりしていた輪郭が次第に輝きを増していき、まぶしくて‥。
気がつくと、大きくなった琴子が目の前に立っている。
琴子が抱きついてくる前に、引き寄せて抱きしめる。
消えてしまう前に抱きしめて‥。

「入江くん、私も寂しがっていないで、東京で頑張るね。
 来年ちゃんと国家試験に合格してちゃんと看護士になれるように。」

両手で頬を優しく包んで額にそっと唇を寄せる。
大きな瞳から涙が零れ落ちる。

「寂しがってもいいよ。俺だって琴子が傍にいなくて、 寂しいがってるから。」

「え‥本当?」

「俺も、研修頑張るから。こっちでの研修早く終わらせて、 琴子の所に帰るから。」
‥俺が本当に居たい場所に‥
ちび琴子にしたくで出来なかったキスを優しく唇に落とすと、
再び琴子の周りに青白い光が集まり、輪郭と交じりあって包み込んで
輝いた瞬間、腕の中にあった確かな感触はぬくもりの名残だけになっていた。


「‥‥‥」


サイドテーブルには小さなピッチャーに甘いコーヒーが少し残っている。
夢だけど、夢じゃない‥。

多分琴子の想いだけが、ちび琴子になって神戸までやってきたんだろう‥。
きちんと本体に戻ってるのか‥

琴子が選んだマグカップに残った冷たく甘いコーヒーをゆっくり飲み干した。

☆☆☆

一瞬青白い光が輝いて、包み込まれたような気がした。
ベランダの椅子に座っていた琴子は、両頬の大きくて暖かい手の感触と、
腕や体に抱きしめられた温もりが残っている。額と唇に優しいキスの感触が‥。

「入江くん‥」突然、大粒の涙が瞳から零れ落ちてくる。
楽しい長い夢から覚めて‥。ずっと見ていたかった夢。

その時、急に電話がなった。

急いでベランダから戻って電話を取ると‥入江くん!!

「琴子?」

声を出そうにも涙が止まらなくて出てこない・‥
「うっ‥ひっ」
嗚咽しか返せない‥。

涙が収まってくるまで、黙って入江くんは受話器の向こうにいる。

「ちゃんと帰ったんだな」
質問の意味は分からないのに、口からは自然に声が出る。
「‥‥うん。」
そう答えて、窓の向こうに輝く月を見つめる。お月様?


☆☆☆

甘いコーヒーを飲み干した後、東京の家に電話をかける。
今度はきっと琴子が出るはずだ。

すこし長いコールの後、無言の琴子が電話口に出る。
「琴子?」

嗚咽を押し殺す声がしばらく続く‥。
分かるかどうか。心配していることを聞いてみる。
「ちゃんと帰ったんだな‥。」
「うん」

神戸の空高く昇った月を仰ぎ見る。
今度の休みが取れたら、絶対、東京に帰ろう。
そして2人の部屋のベランダで月を眺めよう‥。





「なあ、そっちでも月‥見えるか?」



Fin

最後までお読みいただきありがとうございました。
2008年08月25日(月) 20時09分01秒 イタKiss何でも書いてみように投稿、公開
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なおちゃん様
コメントありがとうございます。

もじったわけでもないですが、近しい話になったのかな(^。^)
でも最初にイメージいていたのは南くん…と銀曜日のおとぎばなしかも。
2015.04.20 21:04 | URL | ema-sque #- [edit]
昔、南ちゃんの恋人‼ドラマあったよね、南くんだっけ?忘れた?それを、もじったお話だね。
2015.04.13 22:09 | URL | なおちゃん #- [edit]


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